「自閉症の方に関する弁護士あるある」全6回+完結編  完結編   辻川圭乃先生(弁護士)

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いとしご171号(2018/5/8)~179号(2019/11/8)で掲載したものをWEBで転載(一部変更)しています。

(完結編)理解のある弁護士に依頼してよかった!!

「うちの子の障害特性を1から 説明しなくても いいことが、何よりよかった」。
お地蔵さまの前の香炉で、ビニール袋を燃やした軽犯罪法違反に問われ、何の同意もしていないのに、警察署に連れて行かれ、かつ、何の同意もしていないのに、口腔内から細胞(DNA)を採取された男性の母親は、開口一番そう言いました。
男性は、重度の知的障害を伴う自閉症があり、感覚過敏もあり、とりわけ口腔内の触覚については歯科治療も困難なほど極めて過敏でした。DNA採取は、頬の内側から綿棒のようなもので細胞片を採取して行います。男性は、この日から、制服を着た警察官を見ると、固まり、避けるようになりました。男性の母親は、警察署に抗議に行きました。国家公安委員会にも、県庁にも行きました。しかし、どこでも、息子の障害特性について、一から話さなければなりませんでした。そのため、本論に行くまでに疲れ果ててしまいます。

 冒頭の言葉は、男性の母親が警察のひどい対応に関する法律相談のために、当事務所を、訪れたときのものです。その後、男性の依頼を受けて、違法捜査により精神的苦痛を受けたとして、慰謝料150万円と弁護士費用15万円を求めて裁判を起こしました。165万円にしたのは、簡易裁判所ではなく地方裁判所で裁判をするためです。

 その結果、裁判所は、警察官によるDNA採取は職務上の注意義務に違反したとして11万円の支払を命じました。慰謝料10万円と弁護士費用1万円です。損害賠償請求の裁判の場合、弁護士費用は1割と相場が決まっています。いまや消費税と同じです。ただ、裁判を起こしたのはお金の問題ではなく、警察署の自閉症のある人へのひどい扱いに対して憤懣やるかたなかったためです。裁判所は、警察官が令状をとらずにDNAを採取したことは違法であるとの判断をしてくれました。この判決が、障害のある人に対する適正手続が保障され、司法アクセス権が保障されるための警鐘を鳴らすものとなると期待しています。

 ところが、県(警察署)は、判決を不服として控訴してきました。控訴審では、県警側がDNA型記録の抹消と警察事務を行うにあたって障害に応じた合理的配慮の提供をすること及び、これを的確におこなうために研修その他必要な環境の整備に努力することを約束したので、和解が成立しました。

私たち障害のある子を持つ家族のために弁護士さん是非頑張ってください!

 この裁判の報道を見た自閉症の子を持つお母さんからハガキが来ました。以前、就労支援A型の事業所を解雇されたので地位確認訴訟をしたときの人です。株式会社立のA型事業所で、それまで福祉などしたこともなかった事業所でした。ご本人は毎日楽しそうに事業所に通いましたが、 1か月後解雇されました。

 解雇理由は、A型事業所で就労するだけの能力がないというものでした。特に、指示したことをちゃんとできないし、お昼休憩のときにも、 他の同僚の人たちと 和やかに談笑できないので、職場の雰囲気をこわすというものでした。指示したことがちゃんとできないのは、指示の仕方が悪いからです。視覚優位の自閉症の人の特性を理解していないからです。お昼休憩のときの談笑など、労働能力とは何の関係もありません。不当解雇は明らかでした。

 A型事業所は、労働基準法の適用がありますから、地位確認訴訟を起こしました。おそらく、A型事業所での地位確認訴訟なんて、これまで起きたことがなかったでしょうから、裁判所も相手方代理人弁護士も目を白黒していました。でも、結果としては、勝訴して、ご本人やご両親にとても喜んでもらいました。

①障害を理由とする差別や人権侵害に対して

 2001年9月、障害を理由とする差別や人権侵害に対する権利救済に取り組んでいた弁護士が、全国各地から集まり、「障害と人権全国弁護士ネット」を結成しました。「障害と人権全国弁護士ネット」は、障害のある人の人権を擁護する弁護士集団です。

設立趣意書は以下の通りになっています。

「障害を理由とする差別や人権侵害に対する個々の弁護士による取り組みには限界があり、大きな障壁の前に立ちすくむことが多く、困難を極めておりました。今後は全国の弁護士が互いの経験と情報を交換しながら、力を合わせ、障害を理由とする差別や人権侵害の根絶に向けて力を注いでまいりたいと思います。」

 また、同ネットでは、各弁護士が担当した事件を集積しています。数多くの事例を収めた「ケーススタディ障がいと人権」「障がい者差別よ、さようなら!ケーススタディ障がいと人権2」が生活書院から出版されています。

 詳しくは「障害と人権全国弁護士ネット」のホームページをご参照ください。

②支給量等介護保障問題

 支給量等介護保障問題に関する相談については、介護保障を考える弁護士と障害者の会全国ネットがあります。同ネットではミニ学習会、講演会への弁護士講師の派遣や、支給量を増やすためのフリーダイヤルでの無料相談、申請代理業務、不服審査代理業務などを行っています。

③障害年金

 日本弁護士連合会では、「全国一斉障害年金電話法律相談会」を実施しています。

④その他の一般相談

 障害のある人たちの権利擁護や法的支援のために、ほとんどの弁護士会には高齢者・障害者委員会があります。そして、そこで高齢や障害のある人のための法律相談を行っています。

2001年9月、障害を理由とする差別や人権侵害に対する権利救済に取り組んでいた弁護士が、全国各地から集まり、「障害と人権全国弁護士ネット」を結成しました。

ほとんどの弁護士会には高齢者・障害者委員会があります。

全6話内容構成

第1回  自閉症の方が弁護士に関わるの はどんなとき?
第2回 被害者になったとき
第3回 加害者になったとき
第4回 刑事事件について
第5回 障害年金、支給量、生活保護
第6回 親なき後のために
完結編