「自閉症の方に関する弁護士あるある」全6回+完結編   第4回   辻川圭乃先生(弁護士)

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いとしご171(2018/5/8)~179号(2019/11/8)で掲載したものをWEBで転載(一部変更)しています。

第4回  刑事事件について

 
① 自閉症の人と刑務所

前回の加害者編で述べたとおり、自閉症の人が罪を犯しやすいわけではないのですが、刑務所を出てすぐ同じことをしてしまって、刑務所を出たり入ったりを繰り返す(これを、業界用語では「回転ドア現象」といいます。)人たちが一定数いることは事実です。

なぜ、このような現象が起こるのでしょうか。ひとつには、自閉症はわかりにくい障害です。そのため障害があることを家族や周囲の人たちも気づかずに、何の支援も合理的配慮もないまま刑事手続を受けた結果だと考えられます。そして、刑務所の中でも、刑務所を出た後も、同じ状態が続くからです。あるいは、障害があることで生じる「生きづらさ」への適切な支援が受けられていないことが原因かもしれません。


② 出口支援(地域生活定着促進事業)

 厚生労働省は、刑務所などに収容されている人のうち、高齢者や障害のある人たちが、釈放後直ちに必要な福祉サービスが受けることができるよう、平成21年度から、「地域生活定着支援事業(現在は地域生活定着促進事業)」を開始しました(これを、業界用語では、刑務所を出るときにする支援なので「出口支援」といいます)。そして、この事業を行う機関として、各都道府県に地域生活定着支援センターが設置されました。

 地域生活定着支援センターは、保護観察所などと連携しながら、出所半年前くらいから、福祉的支援が必要な出所者等が地域に出た際に具体的にどこに暮らし、どのような福祉サービスを受給することが良いかなどを協議するため、関係者を集めてケース会議を開きます。最近は、このケース会議に弁護士も加わって、今後の更生支援を一緒に担う場合が増えてきました(これを、業界用語では、「寄り添い弁護士」といいます)。

最近、弁護士会の独自事業として「寄り添い弁護士」を行う弁護士会は少しずつですが増えてきていて、今後も増えると思います。大阪弁護士会も令和4年度から試行を始めています。

自閉スペクトラム症に理解のある弁護士
自閉症の人にとって、刑務所に入ることは百害あって一利なしです。

③ 入口支援(刑事手続において司法と福祉関係者が連携して行う支援)

 出口支援は、刑務所を出た後、適切な支援をすることで、 再び刑務所に入らないようにしようとするものですが、そもそも、刑務所に入らないようにすることが肝心です(このための支援を、業界用語では、「入口支援」といいます)。特に自閉症の人にとって、刑務所に入ることは百害あって一利なしです。

 自閉症の人は、社会性の障害があるため、社会でのルールがわかりにくいことがあります。もちろん、社会で暮らしていく以上ルールは守らなければなりません。しかし、刑務所に入ったからといって、学べるわけではありません。自閉症の人にとってルールを学ぶためには個別具体的な丁寧な福祉的支援こそ有効です。刑務所というところは、少ない人数で多数を監視しなければならないため、理不尽な規則がやたらあります。たとえば、独り言はだめ、夜中に顔を洗ってもだめ、飛び跳ねてもだめです。違反すると懲罰を受けます。時には、雑居房で、ほかの受刑者とうまくいかずいじめを受けることもあります。反対に同房者に悪影響を受け、誤学習して出るときには犯罪の手口がバージョンアップしていたり、出たあとに仲間に引っ張り込まれて、使い走りなどいいように使われたりします。もっとも、刑務所は、ある意味構造化しているので、暮らし心地がぴったりとはまる人も中にはいます。でも、ずっと刑務所にいるわけにいきません。「シャバ」より刑務所の中の方が暮らし良いなんて、それは「シャバ」での支援があまりに情けない結果です。私は、可能な限り、自閉症の人は刑務所や拘置所に入れるべきではないと思っています。

弁護人は、留置場や拘置所に入っている人をできる限り早く釈放してもらうよう、そして、できる限り刑務所に入れないよう尽力します。

 

全6話内容構成

第1回  自閉症の方が弁護士に関わるのはどんなとき?
第2回 被害者になったとき
第3回 加害者になったとき
第4回 刑事事件について
第5回 障害年金、支給量、生活保護
第6回 親なき後の問題
完結編