「自閉症の方に関する弁護士あるある」全6回+完結編    第1回  辻川圭乃先生(弁護士)

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いとしご171(2018/5/8)~179号(2019/11/8)で掲載したものをWEBで転載しています。

第1回  自閉症の方が弁護士に関わるのはどんなとき?

 
1.自閉症の方が弁護士に関わるのはどんなとき?

 弁護士と聞くとどんな人を思い浮かべますか?テレビのワイドショーに出て、したり顔でコメントしている人、それとも、企業が何か不祥事をしたら、社長の隣で一緒に頭を下げたり、国会での証人喚問で呼ばれた人に横から何かささやいている人でしょうか。いずれにせよ、自閉症の方たちとはあまり接点はないし、敷居が高い遠い存在、あるいは、あまり関わりたくない人と思っていませんか。ところが、そんな人ばかりではありません。

 また、勇気を振り絞って法律事務所に相談に行っても、弁護士が自閉症のことをあまり知らないと、自閉症の方の表面的な部分だけに着目して、その奥にある本当の困りごとがわからないために、真の解決にいきつかなかったという経験のある方もおられるかもしれません。でも、最近は、自閉症の理解がある弁護士も増えてきています。

 実は、自閉症の方は、その障害特性ゆえに、いろいろな生きにくさを抱えている分、いろいろなところでいろいろなトラブルに巻き込まれることがとても多いのです。そんなとき、頼りにしたいのが弁護士です。まずは、自閉症の方が巻き込まれるのは、どんなトラブルがあるかを見ていくことにしましょう。

自閉スペクトラム症に理解のある弁護士

2 .被害者になったとき

 ⑴消費者被害

コミュニケーション能力に難を抱え、かつ、人を疑うことを知らない方は、デート商法や悪質訪問販売などを行う輩の格好のカモとなります。言葉巧みに誘導され、気が付けば多額の商品を購入させられていたりします。携帯電話の不当請求に、必死に誠意をもって対応して、請求されるまま多額の振込をした人もいます。知り合ったばかりの人でも困っていたら、すぐに連帯保証人になってあげたりします。「絶対迷惑かけないから」という文言を信用して携帯電話の名義を貸してあげたりもします。

⑵虐待      

虐待を受けても、虐待と気づかない人もいます。でも、そんな場合でも、問題行動が増え、自傷行為が増えます。実は心は深く傷ついているのです。また、虐待を受けていることがわかっていても、被害を上手く伝えられないために、信じてもらえないこともあります。そのため、わかったときには重篤な被害となっていることが少なくありません。

⑶差別

障害特性に対する無理解が誤解を生じさせ、偏見を生み、差別へとつながります。目にみえない障害であるがゆえにどのような合理的配慮をすればよいかわからず、結果、排除されたり、拒否されたりします。

自閉症の方は消費者被害にあいやすいこともあります。

3.加害者になったとき

いろいろなこだわりを持っている自閉症の方は、時には、物を壊してしまうことがあります。また、自閉症特有のシングルフォーカスによって、 足元にいた幼児に気づかず、ぶつかってしまうこともあります。突発的事態に気が動転して、パニックとなり、人を突き飛ばしてしまうこともあるかもしれません。

すべて、民事上は損害賠償責任が生じます。もちろん、物を壊したり、人にけがをさせたりしたら弁償しなければならないのは当然ですが、被害者の中には偏見からか必要以上に感情的になる人もいます。



4.刑事事件

自閉症の人は、その特有の障害特性ゆえに不審者に間違われやすいという特徴があります。また、自分を守る力が弱いために、他人の罪を押し付けられたり、やってもいない罪をやったこととされたりします。被害の延長として、他害行為などの問題行動が犯罪行為となることもあります。

いずれにせよ、刑事手続において、障害に配慮した適正手続が保障されるためには、障害特性を理解した弁護人が不可欠です。

不審者に間違われやすいこともあるようです。

5.障害年金・支給量・生活保護

障害基礎年金の受給や福祉的サービスなどの利用は、障害のある人が障害のない人と同じような尊厳のある暮らしをするためには必要不可欠なものです。障害のある人にとっては当然の権利です。でも、一見してわかりにくい障害である自閉症は、ともすれば必要がないと  判断されてしまうことがあります。超高齢社会となり年々福祉予算が増大する中、最近特にそういった風潮が見受けられます。しっかりと声を上げて権利を主張していく必要があります。

 6.親なき後のために

自閉症のある子を遺して逝くのは心配です。でも親は、いずれわが子より先にいなくなります。親なき後のために、一生懸命遺産を遺しても、悪質商法に騙されてしまうかもしれません。施設に入れても中で身体的虐待にあうかもしれませんし、逆にネグレクトにあって十分な支援をしてもらえないかもしれません。

親なき後のための制度として、成年後見制度があったり、遺言や信託などがありますが、それぞれ一長一短があります。制度を知って親なき後に備えましょう。

親なき後の問題に備えましょう。