(取材記事)文部科学省の調査”8.8%をどのように理解するか

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令和4年12月13日に文部科学省から公表された「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果」について、“発達障害” “8.8%”のキーワードで取り上げられている記事を目にすることがあります。

発達障害=8.8%なのか、そして私たちはこの研究をどのように理解していけばよいのか等を、本調査の座長を務められた全国特別支援教育推進連盟の宮崎英憲理事長にお伺いしました。

通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について”

https://www.mext.go.jp/content/20221208-mext-tokubetu01-000026255_01.pdf

Q1. “発達障害“のワードを今回研究タイトルにつけなかったのはなぜですか。

今回の調査で強調して伝えたかったことは、「学習面・行動面で著しい困難さを示す子供の割合」を推定する調査であり、いわゆる発達障害や知的障害の子どもの数を推定する調査ではないということです。

つまり “特別なニーズ”のある児童生徒がどのくらい在籍しているか・具体的にどのようなニーズかということを調査したということが重要だと考えます。

これまで本調査を含めて3回の調査を行ってきた中で、平成24年の調査では“在籍する発達障害の可能性がある”という名称がつけてありますが、発達障害者支援法の動き等もあり対応されたものだろうと受け止めています。

調査は学級担任等による回答に基づくもので、お医者さんではないので確定診断ができるわけではないのです。

もちろん研究の協力者会議には発達障害の専門である著名な先生方に入っていただいているので、細かく分析はしていますが、“発達障害”というタイトルをつけることで、学校の先生の頭に“発達障害“という認識が入ってしまい適切な支援が行われなくなってしまう可能性はあると思います。

そのようなことを念頭において、今回の調査では“発達障害”のワードをタイトルにつけない形で対応してあります。

Q2. 取り上げられている”8.8%”をどう理解したらよいでしょうか。特別な支援を必要としている子が増えていると理解してよいのでしょうか。

地域によっても違いがあり、生活環境は様々で、グレーゾーンの子が結構いるということだと思います。

このグレーゾーンの子がどっちに寄るかによって変わるので、8,8%をどう解釈するのかはなかなか難しいです。

ただ、この数値に少し知的な遅れがあると思われる子ども、聴覚障害、視覚障害、肢体不自由、言語上で課題ある子や医療的ケアを必要とする子ども等を加えると10%は優に超えると思います。

通常教育の中にかなり入っていますし実質的にインクルーシブ教育がどんどん進行中です。

割合からみても、“特別”という言葉を使わないようにしようよ、となるのが次の段階かなと思います。ごく当たり前の支援になるだろうということで、支援教育という言葉に変えようという動きもあります。

こういうことを考えると支援員をどうつけるか、教材教具を新しく開発する等そういうところにも益々力をいれていかないといけないですね。

Q3. 全体的には特別な支援を必要としている子は増えているかと思いますが、生徒側の原因なのか、あるいは先生の捉え方によるものなのか、どうお考えですか

この数値の原因は両方あると考えます。

先生にとっては一斉授業もそうですが、教えづらいと感じることがあるのではないでしょうか。昔もこのような子どもはいたが、恐らく支援が十分に受けられないまま卒業していた可能性があると思っています。

近年になり、先生方も特別な支援が必要ということに気づきはじめていて、その子たちをどうやったら支援できるのかという視点でみることができるようになってきていると思います。教材や教え方などでも、大切にされてきている個別配慮・合理的配慮も具体的かつ現実に学校の中で提供し始めています。

先生方も意識して、「この子は配慮が必要なので支援員も含めて学校全体として支援をしましょう」という動きになりつつあります。先生方の能力がないからもう少しちゃんとやれということではなく、学校が様々な関係機関や専門家と地域で協力していく体制をどのように作っていくかが重要だと思います。

一方、生徒の方も非常に多様化していると思います。

各ご家庭での子育ての方針、世帯収入、文化、宗教、地域等、多くの違いがある中で子どもの育ちも多様化しています。また、外国にルーツを持つ生徒も増えています。

そのような多様性あふれた子どもたちを学校が全ての面でみていくというのはなかなかに困難であると思います。

多様性の尊重はその通りですが、そのためにやらなくてはいけないのは、率直にいわせてもらうと”クラスサイズ(学級編制基準)を小さくすること”だと思っています。

日本は多くの人数を一斉指導で先生が教育している部分がありますが、これはとても大変なことです。国がかけている教育費用も世界的にみても比率として低い現状で、これだけ多様性に対する対応が求められている中で、私は日本の教員は頑張っていると思っています。

Q4. 本調査を通して、今後どのようにしていくか。

平成14年、平成24年、そして本調査を経て、今何が足りていないのか、通常教育の中でどのような支援をしていけば、お子さんたちが自分の能力を発揮できるかという視点で教育的支援をしていくことだと思います。

国連の勧告にもあるように、今後、特別支援学校のお子さんも通常学級で学んでいけるようにするためには、どのように学校制度を整えていくかを考えていかなくてはならないと思います。