トランプ政権の「自閉症の原因と治療」に関する発言(2025年9月22日)と一連の動きについて
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(※本ブログは許可を得て、井上雅彦常任理事のnoteより転載しました。)
常任理事 井上雅彦
2025 年 9 月 22 日の記者会見でトランプ大統領はロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官の隣に立ち、自閉症の原因と治療に関する発言を行い、そのことが大きな波紋を呼んでいます。
ホワイトハウス公式サイトには「FACT: Evidence Suggests Link Between Acetaminophen, Autism(事実:アセトアミノフェンと自閉症の関連を示す証拠)」という記事が同日に掲載されました。この発言の趣旨は以下のようなものであったとされています。
・ 妊娠中の母親によるアセトアミノフェン服用は子どもの自閉症の原因となり得るため、妊娠中のアセトアミノフェンの服用を避けるべきである
・ 混合ワクチンの同時接種は避け、複数回に分けて期間を空けて接種すべきである
・ 自閉症の治療薬としてロイコボリンの積極的使用
先日、複数の親御さんたちから自閉症に対するロイコボリンの効果について質問があり、私が考えているより、とまどいを感じている親御さんが多いのでは?と、今回記事にしている次第です。
今回の私の記事は特定の政治的な立場を批判したり、支持する立場にないことを申し上げておきます。
米国では、この発言を受けて多くの医学系学会や団体が声明を出しており、
Autism Science Foundation(ASF)
Autism Speaks
American Psychiatric Association(APA:米国精神医学会)
American Academy of Pediatrics(AAP:米国小児科学会)
要約としては以下のような点で一致しています。
・今回のホワイトハウスのメッセージは、現在の科学的コンセンサスを大きく歪めている
・ワクチンと自閉症の因果関係を再び持ち出すことは、公衆衛生上きわめて有害
・ロイコボリンは一部の状況(例:脳脊髄液葉酸欠乏症)では検討されうるが、“自閉症の治療薬”と喧伝すべき段階ではない
・家族はパニックにならず、主治医と相談しながら、既に有効性が確立している教育的・心理社会的支援を基盤に考えるべき
日本では日本自閉スペクトラム学会や日本WHOが同様な声明を出していますが、他の団体での動きはないようです。
私自身も上記の主張に賛成する立場ですが、このような米国政府、トランプ氏の発言は、新たな科学的事実に裏打ちされたものではなく、現在の米国の政治的背景が強く影響しているように思います。
ケネディ長官は、第2次トランプ政権発足後、「9月までに、連邦政府として自閉症の原因を突き止める」と繰り返し公約してきてきたこと(その締め切りに合わせて発表した)、ケネディ長官自身、長年ワクチン懐疑論の旗振り役であり、官僚機構や研究者などエリート層に対決するというスタンスをとることで国民から支持を集めるという政治的な状況が関与しているのではと疑いたくなります。
さらに問題は政府機関であるCDC米国疾病予防管理センターを巻き込んで、再びワクチンとの因果関係に大きな研究費を投じようとしていることです。11月20日のAutism Speaksの声明では、20年以上の歴史から否定されてきたワクチン仮説をCDCが今更蒸し返すことの懸念を表明しています。
私の考えは、ワクチン仮説研究を行うことについて単に批判しているのではなく、政治的な力によって、今までの科学的な研究の蓄積をゆがめる形で、強引に政府研究機関での学説を転換させ、多額の予算を付けてしまうことです。
このようにしてついた予算で研究をすることで、その結果がゆがめられてしまうリスクを懸念します。
また、多くのご家族が効果があると思って特定の薬を購入し、服薬させたり、様々な理由でワクチンを接種した親御さんを不安にさせてしまうことはあってはならないことです。
自閉症の研究では世界をリードする米国でこのようなことが生じ、間接的に私たちに影響を与えかねない事態になっていることに対して一人の専門家として深く憂慮する次第です。
親御さんや支援者さんには、今回の米国政府の見解だけでなく、その背景やその後の研究機関などの見解を知っていただいたうえで、判断をされることを願っています。